英語のレポートは提出してから放課後呼び出され、学会に発表しよう、とまで言われてしまった。
マジ無理。あれは無理すぎる。おなか痛いので帰ります、と言って逃げてきたけれど、多分きっとまた明日もつかまるのだろう。まさかあれは中学生が書きましたなんて言えない。
「ちょっとそこの女ァー」
だるそうな声と共に背中に明らかな視線を感じて足を止めた。つくづく最近の私はついてないと思う。ガラの悪い学生に捕まるなんてこと今まででは一度も無かったというのに。きっとあの六道骸くんとやらは波乱万丈なものと共に不運までも運んできたようだ。
振り返ればそこには奇妙ないでたちをした、骸くんと同じ制服の学生2人。一人はニット帽を被った寡黙そうな男の子で、もう一人は髪の毛をピンで留めた、隣の子とは正反対によく喋りそうな風体。
「…何の用かな?」
一応年下ということでできるだけ口調を抑えた。猛烈に今私は機嫌がよろしくない。たとえこの子達が喧嘩有段者であろうと何だろうと無茶な喧嘩だろうとぶつかって一発殴ってやると思える程度の怒りが私の胸の内をぐるぐると回っていた。ああ、お風呂はいりたい。
「おめーが?思った以上に間抜けな顔してんなー」
「…犬には言われたくないし……」
「柿ピーは黙ってるびょん!」
「………」
うわあ、骸くんと同じような空気を感じさせる濃いキャラクターだ。関わるのも面倒、と思いながら溜息を吐くと、「何だるそうな顔してるんだびょん!」と怒鳴られた。
怒鳴られる要素が生憎見当たらなかった私は不機嫌な表情のままピンの男の子を睨みつける。最近の年下は礼儀がなってないと説教してやりたい気分だ。
「それで、何?用も言われないで待たされた上怒鳴りつけられるとすごく腹が立つんだけど」
「…この女、よく言うぜー」
「………正論だと思う」
「うるへー柿ピー!!」
似たような流れに持ち込まれてしまって、ああもう神様私何かしましたっけ?一昨日まだ賞味期限きてないのに店員が間違って半額のシール貼ってしまったやつを言いつけず買ってしまったからですか?でもあれ店員が悪いよね。いやそうじゃなくて。
「話をしないなら私帰るけど」
不機嫌に言い放つと、ピンの子がぴたりと動きを止めたようだった。そして目に見えない動きで私の前に立ちはだかる。ああこの子喧嘩強いんだな、だからどうしたの?と、いつものテンションならばありえないことを考えて私はその子をにらみつけた。
背後ではニット帽の子が呆れたように溜息をついて、なんだか私の逃走経路を邪魔している模様。本格的に苛立ちみたいなものが私を支配した。
「骸さまの姉になったって聞いたからどんなすげー女かと思えば、こんなんらもんなー」
「犬、失礼」
「らってその通りだろー?柿ピー」
骸。そのワードにぴくんと私が反応する。
やっぱりあいつか。あいつが諸悪の根源か。あの男ちょっと役に立つレポート作ったからって調子乗んなよ。怒るときには私も怒るんだよボコられようがリンチにされようがあのさわやかな笑顔に一発ブチ込むまで私はあきらめねーぞコノヤロー。
「邪魔。アンタみたいな年下に構ってる暇はない。家に帰る。どけろ」
自分に言える限りの暴言を吐いた後、呆気に取られた様子のピンの子を押しのけた。「、て、めっ!」怒ったように手が振り上げられる。「!」殴られる、と察知した私は反射的に目を瞑って頭をガードした。
けれどいつになっても衝撃は来ない。
「…………?」
「…何をしているのですか、犬」
「骸さまー!」
パッチリと目を開けて見上げれば、あのパイナップル頭が目前に。
かばってくれたのは嬉しいけど元凶を追求すれば全て君だよね!まあ一応かばってくれたのは事実だし、ありがとうとだけは言うけれど。
「怪我はしてませんか、?」
「してませんよええしてないですとも精神的にはズタズタ入院沙汰だよ」
そんな私の精神状態を癒すには唯一つ。君が私の目の前から消えてくれればそれでいいのだ。
あー、と猛烈に溜息をつきたくなった。なんって人間って面倒なんだ。もしも私がこの世で一番強い人間だったならば、誰であろうと喧嘩腰で向かい合うことができたのに。
「それはそれはかわいそうに。さて犬、僕に許可もなしにこんなことをして…ただで済むとお思いですか?」
「ごめんなさい骸さま!」
「千種も同罪です。暴れたら止めてあげなさいと言ったでしょう」
「!…すいません」
犬と呼ばれた子が呼んでいた通り、こいつ様つけられるほど崇拝されてんのか。世の中には特殊な人間が居たものだ、と思いつつ少しずつこの団体から距離をとっていく。最低50メートルの差をつければ家まで逃げ切ることはできるだろうと思った。まあ家に逃げたところで骸くんにはつかまるのだろうけど。
するとわずか1メートルも離れていないというのに骸くんが背中を向けたまま「どこへ行くんですか?」なんて言うもんだから私の背中は針金みたいにぴんと伸びて動きが止まる。
「…関わりたくないから逃げようと…」
「クフフ、予想以上に素直ですね。まあいいでしょう、そういう素直な人間は嫌いではありません。…さて犬、千種、帰りますよ」
「(おまえに好かれたいとは微塵も思ってない)…」
「その『おまえに好かれたいとは微塵も思ってない』なんて顔やめて笑ってください、ね?」
「うわーもうほんと骸くんどうして人の心勝手に読むのかなぁ。メッ!!」
あああ、頭が痛い。この人に関わっていると偏頭痛で苛まれてしまう。まあなんにせよ彼らは帰ってくれるようなので、私の頭痛もこれまでだ。さて家に帰ろうとしたところでグッと襟を引っ張られて息が詰まった。
「ふ、っ!!」
倒れかけた体を骸くんが抱きとめてくれるけれど、一向に嬉しくない。「…家に帰りたいんだけど」最高に不機嫌な顔で言ったつもりだったけど、骸くんはクフフと笑っただけだった。
「帰りますよ?だから帰ろうと言ったじゃないですか。僕らのアジトへ」
「……はああああああああ!!?」
高校3年生、スキル頭痛・常時頭痛・特技頭痛。
骸くんは一度豆腐の角に頭をぶつけて死ねばいいと思った。
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